がん化学療法

がん化学療法について

 わが国では、生涯でがんに罹患する確率は、男性60%(2人に1人)、女性45%(2人に1人)と言われており、男女とも50歳を過ぎたころより多くなってきます。また、がんによる死亡が年間30万人を超えており、死因の第1位となっていますが、早期に発見できれば治癒する可能性が高くなり、早期発見・早期治療ががんを克服するうえで重要な要素になっています。

 がん患者さんに対し、当院では内視鏡治療、外科的治療、抗がん剤治療など様々な治療を行っています。がんの性質や進行度などを総合的に評価し、患者さんにとって最適な治療法を提供できるよう心掛けています。

 近年、がん患者さんの生活の質を重視するようになり、がんの治療を行いつつも生活の質を維持していただけるよう当院でも様々な取り組みを行っています。その一つとして、入院をしないで外来で治療を行う「外来通院化学療法(抗がん剤治療)」を積極的に導入するようになってきました。この結果、仕事の継続や自宅療養が可能となる機会が増え、がん患者さんやご家族の意向に沿った対応を取れることが多くなりました。

 なお、患者さんのご希望により他施設におけるセカンドオピニオンを紹介させていただきます。
(千葉大学医学部附属病院、千葉県がんセンター等)

なぜ抗がん剤治療が必要なのでしょうか?

 正常細胞は一定の規律で分裂・成長し死滅しますが、がんでは遺伝子異常などにより規律を制御するシステムが破綻するため、がん細胞はいつまでも無秩序に増えます。そして、がん細胞は周囲に広がり、血管やリンパ管などを通って他の臓器へ転移し、最終的にはそれぞれの臓器の機能不全をきたします。

 手術や内視鏡的治療はがんに対する局所療法ですが、抗がん剤治療は内服や注射によって全身に行き渡らせる全身療法です。手術でがんを取りきったと考えられても、すでに血管内やリンパ管内に微小ながん細胞が漂っている可能性があります。これら微小ながん細胞や他の場所へ転移し全身に広がっているがん細胞に対して、抗がん剤治療を行います。

 抗がん剤治療は、①がんを治癒させるため、②がんの転移・再発を防ぐため、③がんの成長を遅らせるため、④転移しているがん細胞を殺すため、などの目的に行われます。

抗がん剤治療の副作用について

 抗がん剤には様々な種類がありますが、無秩序に分裂・増殖するがん細胞に特異的に作用する薬が多くあります。正常細胞でも分裂速度が速い血液細胞、消化管粘膜(口腔、胃、腸管)や毛根などの細胞は影響を受けやすいため、①白血球減少、②口内炎・嘔気・食思不振・下痢、③脱毛などの副作用が生じやすくなるのです。

 白血球が減少すると免疫能が落ちるため、感染にかかりやすくなり、発熱などの症状が出現します。自宅でもすぐ対応できるよう、あらかじめ抗生剤などを処方して対応しています。また、消化器症状に対しては、制吐剤など支持療法の実践を積極的に行っています。

当院の化学療法システム

 当院では、患者さんに安心して治療を受けていただけるよう、多職種のスタッフがチームを形成して取り組んでいます。特に、研修を受けて専門知識を持っている「がん化学療法看護認定看護師」が中心となり、副作用・合併症の早期発見に努め、仮に出現しても最小限に抑えられるよう取り組んでいます。

 また、医師・看護師・薬剤師などで構成される化学療法委員会で審査され、承認されたプロトコールが実際の治療に用いられています。このプロトコールは各種がんガイドラインで承認されたレジメンであり、全国で行われている治療法とほぼ同じものを用いています。

 平成26年12月1日新病院移転に伴い、外来通院化学療法室が10床に増床され、プライバシーを保ちながらリラックスした環境で治療を受けていただくことが可能になりました。われわれがん化学療法スタッフ一同は、患者さんに安心して治療を受けていただけるよう今後も様々な取り組みを行っていきますので、どうぞ何なりとお申し付けください。そして快適な生活を送っていただけることを心より願っています。

化学療法に関する学会報告

 以下、化学療法に関する学会報告を2件ご紹介させて頂きます。

 ①第77回日本臨床外科学会:2015.11.26.-11.28. 福岡市
ロンサーフ長期投与が奏効した切除不能大腸癌の1例
二村好憲、他

[要旨]ロンサーフ®は新規抗悪性腫瘍剤として2014年承認された。RECOURSE試験にて、ロンサーフ群はプラセボ群に対し、無増悪生存期間および全生存期間が有意に延長したと報告され、2レジメン以上の化学療法治療歴のある切除不能結腸直腸癌に対する新規治療薬として期待されている。今回我々は、切除不能大腸癌症例に対し、術後長期にわたりロンサーフを投与して無増悪生存期間が12ヶ月保たれている症例を経験したので報告する。肝転移を伴うStage IV の結腸癌に対し結腸切除術を施行。SOXBmabを開始し、計7回施行したところで肝転移巣は縮小したため肝部分切除術を施行した。肝切除術後TS1を再開したが、CEAの再上昇と大量の腹水貯留を認めたため、ロンサーフを開始した。投与後直ちに腹水は消失し、CEAは正常化した。経過中骨髄抑制がみられたが、CEAは正常で、CTでも腹水貯留など再発兆候はみられず、計8コース投与した。外来にて経過観察中だが、大腸癌再発兆候はない。ロンサーフは3次治療以降の対象とされているが、腹水貯留など状況によっては他コースが選択できない場合でも、2次治療としても十分効果が得られる可能性が示唆された。

 ②第88回日本胃癌学会:2016.3.17.-3.19. 別府市
進行・再発胃癌に対するS-1/CDDP療法の現状
二村好憲、他

[要旨] 進行・再発胃癌に対してS-1/CDDP(SP療法)が標準化学療法として行われている。治療に際し当初は入院 (long hydration法:以下L法) を要したが、当院でも2013年2月より高容量CDDP外来投与(short hydration法:以下S法)を行っている。そこで、SP療法の現状を解析し、治療成績とL法・S法の安全性を検討した。[対象] 2008年1月から2015年8月までの期間に、当科においてSP療法を行った胃癌症例33例を対象とした。レジメンはS1 80mg/m²、CDDP 60mg/m²で、L法は5日間入院にて、S法は1日外来にて施行した。[結果]投与回数の平均はL法3.2回、S法3.5回といずれも複数回投与が厳しい症例が多かった。術前化学療法(NAC)施行後組織学的効果判定ではGrade 2を呈する症例があり、SP療法の有効性が示された。Grade 3以上の有害事象は、L法が42%、S法が25%であった。両法で生じた主な有害事象は貧血と倦怠感・食欲不振・悪心であった。NAC群と再発群は進行群より生存期間が有意に長かったが、L法/S法間に生存率の差はなかった。[結語]S法はL法と比較しても有害事象発生に影響を与えないことより、今後積極的に導入を行う方針である。

がん化学療法委員長 二村 好憲

がん化学療法の取り組み

化学療法における看護師の役割について

 化学療法の分野では、分子標的治療薬をはじめとする新規薬剤、新規レジメンの登場で生存期間の延長が望めるようになりました。生存期間の延長で化学療法を行う患者さんは増えています。抗がん剤はほとんどの方に何かしらの副作用が出現します。私たち看護師は、患者さんが治療を受けながらでも、今までの日常生活が送れるように副作用に対するセルフケア支援を行っています。
 化学療法は支持療法(吐き気止めなど)の進歩などにより、入院治療から外来治療に移行しています。当院ではがん化学療法認定看護師が2名勤務しており、外来、病棟にわかれて患者さんの対応を行っています。

外来化学療法室
 新病院移転に伴い7床から10床に増床しました。外来化学療法室では抗がん剤投与、患者さんの自宅での副作用やその対処方法を確認しています。薬剤によって副作用が異なるため、患者さん個々に合わせたセルフケア支援が行えるように、毎朝、看護師同士のカンファレンスを行っています。また医師、コメディカルと協力して少しでも患者さんの副作用が軽減できるように努めています。
 化学療法室では全ベッド、全リクライニングにテレビが付いており、リラックスして治療が受けられるようにしています (写真1〜2)。また化学療法室で知り合いになった患者さん同士で会話をしながら治療を受けている方もいます。
 化学療法を繰り返し行っていると血管が出にくくなるため、手浴台を設置し、お湯で腕を温めて血管をでやすくし、穿刺時の苦痛を少しでも軽減できるよう対応しています(写真3〜4)。

写真1
写真2
写真3
写真4

 初回治療の患者さんには看護師、薬剤師から副作用の説明、副作用を軽減するための対策をお話しています。ベッドサイドで点滴を受けながら行う場合や、説明室で行う場合など様々です(写真5)。説明室にはかつらのパンフレットや見本、高額療養費のパンフレットなど様々な資料が置いてあります(写真6)。

写真5
写真6

病棟
 病棟で化学療法を受ける患者さんは、初めて抗がん剤を投与される場合や数日にわたって点滴が必要な患者さんが対象となります。病棟看護師と一緒に、認定看護師も抗がん剤投与を行い副作用の説明や副作用を軽減するための方法を説明しています。
 病棟担当薬剤師も患者さんに副作用の説明をします。薬剤によって副作用が異なるため、病棟薬剤師、病棟看護師でカンファレンスを行い、抗がん剤投与が安全に行えるよう努めています。

外来化学療法室における薬剤師について

 千葉メディカルセンター(旧川鉄千葉病院時代を含み)では、2005年4月より、外来化学療法(入院せずに抗がん剤の点滴治療を外来で)を行うようになりました。開始当時から、薬剤師は抗がん剤の調整を、専用の部屋で行ってきました。専用の部屋には、無菌的にかつ、抗がん剤を安全に調製できる、クラスⅡタイプの安全キャビネットを用意しました。調製手順や、手技および汚染時の対処について熟知した薬剤師が、細胞毒性を有する抗がん剤による被曝を防ぐ為の防護ガウンやマスク、手袋を着用して調製を行いました。また、抗がん剤の点滴を受ける患者さんに対して、副作用を中心とした服薬指導を行うことにより、患者さんが、治療を継続できるよう、医師・看護師と協力してきました。
 新しい抗がん剤採用時などには、看護師などのメディカルスタッフへの情報提供や、予測される副作用に対応するための対策について、ディスカッションなども行います。

 薬剤師は、抗がん剤の混合調製や服薬指導以外にも、病態別に使用される薬剤の組み合わせの使用方法を医師ごとではなく、病院の方針として統一し、電子カルテのオーダリングシステムに登録する作業も行います。医療事故による死亡原因の大半は、強い副作用をもつ抗がん剤です。より安全に、効率的な治療を行う為に、薬剤師による抗がん剤使用方法の管理を行っています。事前に医師より処方された抗がん剤に対しても、複数の薬剤師により、いくつものチェックを受けて、点滴当日は、担当の薬剤師が、無菌的に安全に抗がん剤を混合調製しています。

 2014年12月より、当院は新病院へと移転しました。新しい外来化学療法室においても、旧病院と同様に、薬剤師が抗がん剤を専用の部屋と設備で、安全に混合調製を行い、わかりやすい服薬指導を心がけてまいります。 がんになられた患者さまが、すこしでも明るい希望が持てるよう、医師・看護師・医療事務などの様々なスタッフと共に、薬剤師として出来る限りのことを、これからも努力していきたいと考えています。

近年の薬剤混合調製の実績(数字は件数、件数には入院も含む)
2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
消化器外科 443 447 392 457 386
消化器内科 283 304 295 377 355
内科 165 151 115 109 126
外科 168 116 72 100 125
泌尿器科 99 103 144 84 59
産婦人科 3 10 8 8 3
総計 1161 1131 1026 1135 1054

薬剤師の調製風景